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効果ない若牛の検査

「全頭検査でBSEの牛はすべて分る。」
これがまったくの誤解であることを知る人は残念ながらまだ少ない。

BSEの病原体は牛の脊髄や脳などの特定危険部位に溜まる。病原体で汚染した特定危険部位で作った肉骨粉を牛が食べるとBSEに感染することがある。また特定危険部位を人間が食べると新型ヤコブ病に感染することがある。

だからBSE対策は飼料規制、すなわち肉骨粉を牛に食べさせないこと。新型ヤコブ病の対策は食肉処理場で特定危険部位を除去・焼却し、人間の食用にならないようにすること。これは肝臓などの毒が溜まる部分を除去すればフグを安全に食べられるのと同じである。

世界のBSEの大部分である18万頭が英国で発生し、164人が新型ヤコブ病で亡くなっている。しかし飼料規制の結果、BSEは激減し、特定危険部位の除去の結果、新型ヤコブ病の患者数も減少し、日本でも世界でもBSE問題は解決に向かっている。

牛は1歳までにBSEに感染するが、平均5歳までは症状も示さず、BSEであることが分らない。検査は脳に溜まった病原体を見つけるものだが感度が悪く、病原体が十分溜まる平均約4歳にならないと見つけられない。だから若牛の場合にはBSEであってもそうではないという検査結果になることが多い。そしてほとんどの牛は4歳以下で食用になる。全頭検査は対策にならないだけでなく、BSEをBSEではないと誤解させるのである。

1992年に英国で新型ヤコブ病の恐怖が広がり、英国政府は特定危険部位の除去と飼料規制に加えて、発病が近い30ヶ月以上の牛をすべて殺して焼却し、若牛だけを食用にするという対策を追加した。EU各国も30ヶ月以上の牛を検査し、BSEと判定された牛は食用にしない対策を追加した。これらは安全対策というよりは国民感情に配慮した「安心対策」であった。

日本でも2001年にBSEが見つかり、国は飼料規制と特定危険部位の除去に加えて、30ヶ月以上の牛の検査の方針を発表した。しかし「全部を検査すべき」という声に押されて世界に例がない全頭検査が始まった。もちろんこれも「安心対策」だったのだが、「検査でBSEは必ず分る」という誤解が急速に広まった。

誤解を強化したのが米国でのBSE発見と米国産牛肉輸入の停止だった。農林水産大臣は「全頭検査が輸入再開の条件」と述べ、マスコミも国民も喝采を送った。しかし米国は非科学的としてこれを拒否。日本の新聞もテレビも米国非難一色に染まり、全頭検査は誤解に加えて感情の問題にまで発展した。

こうなると食品安全委員会の「検査は21ヶ月以上の牛で十分」という科学的な評価を素直に聞ける状況ではない。「全頭検査の継続」の声ばかりが届き、すべての都道府県でこれを継続している。

一度できあがった誤解を解くことは難しく、始めてしまった全頭検査をやめるのは勇気がいる。しかし食品の安全対策は感情ではなく科学に基づいて行うことがなにより重要である。国も地方自治体も、そして政治も、誤解を解く努力をさらに強める必要がある。

(2008年11月7日 会長 唐木英明:毎日新聞朝刊論点に掲載の原稿)

コラム「毎日新聞論点」


毎日新聞の論点に記事を書いたが、事前に誰が論争の相手なのか、相手がどのような原稿を書いたのか、全く知らされなかったので、すれ違いの部分もあった。

しかし、相手の原稿を見て自分の原稿を書き直すと、終わりのない論争になりそうなので、これも仕方がないのかもしれない。

代わりに、ここで意見を述べておくことにする。

高橋北海道知事の主張の中に、発生原因の究明がなされていないから全頭検査を続けるべきという意見の紹介がある。しかし、これは間違いである。というのは、全頭検査を続けても、発生原因が分かるはずがないこと、そして、全頭検査はBSE対策にならないからである。

英国で発生した2頭目以後のBSEは汚染した肉骨粉の犠牲になったのであろう。しかし、1頭目はなぜBSEに感染したのか?羊のスクレーピーからの感染、人のヤコブ病からの感染、弧発性のBSEなど説はいくつもあるが、真実は永久に分からないかもしれない。

しかし、大事なことは対策を取るために必要な事実が分かっていることである。すなわち、肉骨粉の禁止でBSEはなくなり、特定危険部位の禁止で新型ヤコブ病はなくなることはすでに証明されているのである。

和田主婦連副会長は、以下の理由で全頭検査の継続を主張する。1)輸入配合飼料の影響が不明、2)特定危険部位の除去やピッシングの廃止が不十分、3)対策の効果が分かってから検査月齢の見直しをすべき、4)全頭検査のおかげで21、23ヶ月のBSEが見つかった。

しかし、高橋知事も書いているように、約6年半前の2002年2月以来、日本でBSE感染牛は生まれていない。すなわち日本のBSE問題はすでに終了した可能性が大きい。

1)汚染した配合飼料は日本でのBSE発生後は輸入されていないし、2)ピッシングはすでに廃止されつつあるし、3)対策の効果が表れてBSE感染牛が出なくなっているし、4)21と23ヶ月の問題の牛は感染性がない、すなわちBSEではない可能性が高い。これらの事実を和田副会長は述べていない。

高橋知事が言うように、全頭検査がBSEパニックの沈静化に多少は役に立ったのかもしれない。しかし、「全頭検査で牛肉は安心」というのは真っ赤なウソである。

安心は信頼から生まれる。そして、信頼とは「ウソがないこと」である。消費者に対するウソを糾弾することが知事や消費者団体の役割なのではないだろうか。

言い方はきつくなるが、その知事や消費者団体の責任者がウソをついて消費者をだまし続けようとしていることはとても信じられない。いつかウソがバレたときにどのような責任を取るのだろうか?あるいは永久にウソをつき通すつもりなのであろうか。

(H20.11.12 会長 唐木英明)
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